恋愛、結婚、パートナー探し、名前のない関係性の構築。人間関係における価値観も感情も揺らぎやすい時代において、「この人となら、一緒に暮らせるかも?」という感覚は、何によって判断されるのだろう。
そのヒントが、恋愛じゃないパートナーを見つける・セクシャルマイノリティの方のためのマッチングアプリ『フレマ』で開催された10月のリアルイベント『好きな本と漫画を持ち寄って語る会』にあった。
今回の参加者は5名。それぞれが“自分の好きな一冊”を持参し、なぜその作品を選んだのかを語り合った。集まった本のジャンルは多岐にわたるが、不思議なことに、話が進むにつれて“本の説明”よりも、“作品を通じて見えてくる、その人の生き方や暮らしの価値観”が、自然と共有されていった。
それはまるで、「恋愛するかどうか」ではなく、「この人となら、一緒に生活ルールがつくれるかもしれない」と直感するような、未来のパートナー候補を探る時間でもあった。
価値観を映し出す本選び
『フレマ』が主催している月に一度のリアルイベントは、2025年1月から始まった。恋愛感情や身体的スキンシップを介さない関係を望むからこそ、同じ価値観を持つ相手と対面で会って話す機会は貴重。
“友情婚”や“非恋愛的パートナーシップ”を模索する人々のために、いわば「恋愛抜きで人と親しくなる練習の場」を『フレマ』のリアルイベントでは提供している。毎月違うテーマが設けられており、友情婚についての情報収集がメインの回もあれば、ボードゲームをしたりドラマ鑑賞会をしたりも。
10月のリアルイベントのテーマは、ズバリ『好きな本と漫画を持ち寄って語ろう!』。それまでのイベント内でも、小説や漫画、アニメやゲームの話で盛り上がることが多かった。いきなり対面で「さあ、友情婚について話しましょう!」「パートナーシップについてどう考えていますか?」と問いを投げ合うよりも、好きなものを間に挟めば話しやすいのではないか、と考えての企画。
集まったのは、5名のフレマユーザーかつ読書好きの方々。本や漫画が好きな人たちあるあるで、世のなかには「紙の本じゃないと読書した気がしない」という人がいれば、「電子書籍でないと部屋が本で埋まってしまう」と切実な悩みを抱える人もいる。本好きの間で何気なく交わされる話題だが、今回はそこに「暮らしの相性」という観点が加わったように思う。
たとえば、紙派の人なら、本棚に囲まれた安心感や、物理的に手で触れられる信頼性を大事にする傾向がある。電子派の人なら、身軽さや合理性、生活の機動力を大事にしている、といったように。

この違いは、そのまま「物との距離感」や「生活のリズム」に直結しているのではないだろうか。今回行われたリアルイベントでは、直接的にお互いの恋愛観や結婚観に触れる話題は少なかったものの、今後、友情婚や共同生活を考える人にとって、本を通じたライフスタイルの違いは、重要な判断材料になり得るのかもしれない。
本や読書にまつわる些細な議論は、一見小さなことのようでいて、実は非常に本質的。なぜなら、パートナーシップとは、日々の細かな選択の積み重ねによって成り立つものだから。
本を語ることは、“自分との暮らし方”を語ること
今回のイベント開催場所となったのは、東京駅からもアクセス抜群の個室ラウンジ。イベント参加費のなかにドリンクや軽食代も含まれていて、軽くお茶をしながらクローズドな話をするのに適していて、参加者の方々の評判も上々。
順番に、持ち寄った本や漫画の魅力を力説する参加者の方々を見ていて、とくに興味深かったことがある。それは「本の内容だけではなく、どんな気分のときにその本を選ぶのか」という、新しい視点。
たとえば、ある一人の参加者の方が挙げた作品『人類の半数がちいこになった』。タイトルの通り、ある日突然、人類の半分が“ちいこ”と呼ばれる謎の生命体に変身してしまった……という、不可思議でSFチックな話である。
連載当初は、まるで大人気漫画『ちいかわ』に登場するキャラクターたちを愛でるような感覚で楽しめた作品。しかし、少しずつその物語は不穏なダークさを帯びてくるらしく、そのギャップが癖になるのだとか。
「なんだか暗い気持ちになりたいようなときに、おすすめです!」と語ってくださるのを聞き、あえてネガティブな方面に振り切りたいときに、その誘発材として作品を選ぶという切り取り方もあるのだ、という発見があった。
こうした読書のタイミングには、その人の感情のメンテナンス方法や、ストレスの処理の仕方が表れる。これは、将来一緒に暮らすかもしれない誰かと、どう心の距離を取るかというヒントにもなっていく。
「恋愛ではなく、“生活の呼吸”が合う相手を探したい」……そんな気持ちを抱える人にとって、この会はまさに「未来のパートナー候補」を明確にするきっかけとなったのではないだろうか。
恋愛ではなく、“世界観”でつながる時代へ

今回のイベントを通じて感じたのは、本は「自分の内面を映す鏡」であり、同時に「暮らしの相性を測る羅針盤」でもあるということ。
将来をともにするパートナーを探すにあたって、共通する恋愛観や結婚観は必須ではない。お互いの考え方が食い違っていても、話し合いで解決できる土台が整っていれば、理想のパートナーシップを構築できる可能性はいくらでもある。
孤独でいるのは、悪いことではない。でも、人生を一人で生き切る決断をするのは、まだ早い。パートナーを見つける、その間にある無数の可能性のひとつが、友情婚や共同生活であり、本や漫画というツールは、その第一歩として上手く機能してくれるはずだ。
恋愛や結婚観よりも、本棚を通じてお互いを知る。それは、未来のパートナーシップを探す、まったく新しい扉かもしれない。

