「性欲がほとんど湧かないんです」と打ち明けると、少し不思議そうな顔をされます。
私はいわゆる“ノンセク”寄りのタイプです。恋愛感情はあるし、相手のことが大切です。それでも、性行為への欲求はほとんどありません。
一方で、パートナーは性欲があります。
抱きしめたい。触れ合いたい。そう望む人です。
「私はしたくない。でも、相手の欲求も否定したくない」
ここでいつも、胸の奥がぎゅっとします。相手を大切に思うほど、どちらの気持ちも裏切りたくないからです。
あなたにも、似たような悩みはありませんか。
性欲の強さや頻度が違う。性行為がつらい。けれど、相手の願いもわかる。
この“両立しないニーズ”と、私たちはどう向き合えばいいのでしょうか。
一緒に整理してみませんか。
互いの欲求を並べて可視化する
まずやってみてよかったのは、「自分の欲求」と「相手の欲求」を紙に書き出した作業でした。
話し合いだけだと、声が大きい方の気持ちが優先されやすいです。沈黙する側の苦しさは、見えにくいままになります。
私は紙に、こんなふうに書きました。
- 私がしたい親密さ
- 一緒にご飯を食べる
- 横に座って話す
- 抱きしめられるけれど、服は着たままが安心
- 私がつらくなるライン
- 性器に触れられる
- 「最後まで」を求められる
相手にも同じように書いてもらいました。
- 相手がほしい親密さ
- スキンシップそのものがうれしい
- ときどき性行為をしたい
- 断られると嫌われた気がして落ち込む
こうして並べると、「どこまでなら重なっているか」が、少し見えます。
たとえば「抱きしめる」「キス」までは、私も安心できる。相手もそれでかなり満たされる。
だとしたら、まずそこを丁寧に育てていけないか、と考えられます。
大事なのは、「どちらが正しいか」を決める作業にしないことです。
性欲が強い人も、弱い人も、そのままで存在していいです。
ただ、境界線が違う。欲求の種類が違う。
違いを責める前に、「地図を広げて位置を確認する」。その第一歩として、可視化はかなり心を落ち着かせてくれました。
代替的な親密さを探す(共同作業・ケア・言葉)

性行為というルート以外にも、親密さを感じられる場面はたくさんあります。
私はそこを掘り起こす作業を、パートナーと一緒に試しました。
たとえば、共同作業。
一緒に料理を作る。スーパーに行って献立を考える。
ただ横に立って、同じ方向を向いている時間です。
手を洗うときに軽く肩が触れる。笑いながら味見をする。
そのくらいの距離が、私にはちょうどよく、安心できました。
次に、ケアの時間。
体調が悪い日、頭をなでてもらう。
疲れている相手に、マッサージをしてあげる。
「あ、心配してくれている」「安心して甘えていい」と感じる小さな場面が、心のつながりを深くしてくれます。
そして、見落としがちなのが言葉です。
「あなたといると落ち着く」
「手をつなぐだけで満たされる」
「性行為はしなくても、あなたが大切な気持ちは変わらない」
私がはっきり口に出すと、相手の顔がふっとやわらぎました。
相手は、「性行為をしない=愛されていない」と結びつけていたからです。
触れ合いの頻度よりも、「なぜこの距離感を選んでいるか」を伝える言葉が、二人の土台を支えてくれました。
もし今、「代わりの親密さなんて思いつかない」と感じるなら、
自分が楽だった過去の瞬間を思い出してみてください。
一緒に寝落ちした夜。並んでドラマを見た時間。
そこに、自分なりの“ちょうどいい親密さ”のヒントがあります。
ミスマッチが続く時の選択肢を検討する
それでも、どうしてもうまくいかない時があります。
私も、「相手の欲求に合わせ続ける」か、「自分の限界を守る」かで、何度も苦しくなりました。どちらを選んでも、誰かが我慢するように感じてしまうからです。
この時に役立ったのは、「二人で抱え込まない」という視点でした。
たとえば、こんな選択肢があります。
- 性に詳しいカウンセラーや相談窓口に一緒に行く
- 一度、別々の場所に住んで関係を見つめ直す
- カップルの在り方を見直し、恋人から“家族的な関係”へ移行する
- 長期的に見て、お互いが別のパートナーを持つ可能性も視野に入れる
どれも簡単ではありません。
「こんな選択をする私たちはおかしいのでは」と不安になるかもしれません。
それでも、どの選び方も、生き方として“間違い”ではありません。
私は一度、「このままでは私が自分を嫌いになってしまう」と感じた時期がありました。
無理をして性行為に応じたあと、心だけが遠く離れていく感覚があったからです。
そのとき、「一度距離を置きたい」と伝える決断をしました。
相手はショックを受けましたが、「あなたがそこまでつらかったなんて知らなかった」とも言いました。
そこから初めて、本音の対話が始まりました。
ミスマッチが続くなら、「別れ」も選択肢に入ります。
けれど、それは敗北ではなく、「お互いの尊厳を守るための決断」です。
自分の心と身体を守りながら、相手の人生も尊重する道を、一緒に探していいのだと思います。
価値観が近い出会い方を見直す

大きなミスマッチに苦しんだ経験があると、次の出会いが怖くなるかもしれません。
「また同じように求められたらどうしよう」
「最初から正直に話したら、引かれてしまうのでは」
私も長くそう感じていました。
少しずつ楽になったのは、「自分の前提条件」を先に大切にするようになってからです。
たとえば、
- 恋愛やパートナーシップについて語るコミュニティに参加してみる
- SNSやプロフィールに、「激しいスキンシップは苦手」など、自分のペースを書いておく
- 恋愛前提の場より、「価値観が近い友人づくり」の場に足を運ぶ
いきなり「性欲がほとんどないです」と宣言するのはハードルが高いです。
それでも、「スローな関係が好き」「一緒に過ごす時間を大事にしたい」といった言葉からなら、相手の反応も見やすくなります。
価値観が近い人は、「性行為の頻度=愛情の量」とはあまり結びつけません。
一緒に笑う時間。安心して沈黙できる間合い。
そうした部分を重ねながら親密さを育てていける人です。
出会い方を変えることは、「私のニーズが最初から否定されない場所」を選び直すことでもあります。
相手に合わせて自分を削る恋愛から、自分も相手も大切にできる関係へ。
そのための小さな準備として、まずは自分のペースを言葉にしてみませんか。
性欲が強い人も、ほとんど湧かない人も、そのままでもおかしくありません。
ただ、必要な距離と心地よいペースが違うだけです。
「相手の性欲を否定したくない」「でも、自分も守りたい」
その揺れは、とてもまっとうな優しさだと私は思います。
今夜、紙とペンを用意して、あなたと相手の欲求を書き出してみてください。
どこまでなら安心か。どんな親密さならうれしいか。
その地図ができたとき、あなたに合った選択肢が、少し見えやすくなるかもしれません。






