恋人と指先が触れ合った瞬間に胸が高鳴る一方で、その先の展開を思い浮かべると急に身動きが取れなくなることがあります。まるで暗闇に踏み出す前のような怖さを覚え「恋愛そのものを避けたほうが良いのでは」と考えてしまう方もいるでしょう。
今回は、性的親密さに対する不安を抱える方へ向けて、安心できる恋愛の形を探るヒントをお届けします。
手をつなぐだけじゃダメ?

多くのドラマや漫画では「キスの次はベッド」という展開が、当然のように描かれます。そのため「恋愛=性行為」という前提を疑ったことがない方も多いかもしれません。しかし、実際には「ハグで十分満たされる」「手をつなぐところまでが心地良い」と感じる人もいます。好きという気持ちと性的欲求は、別々の軸上に存在するためです。
まず伝えたいのは「手をつなぐだけで完結する関係が自分の理想かもしれない」と思ったなら、その感覚を否定しないこと。身体的な距離感を決めるのは、社会ではなく当事者同士です。
誰かの“普通”に合わせる必要はありません。それに、性行為を望む恋愛を選ぶ人が尊重されるのと同じように、望まない恋愛も尊重されるべきです。
悩みすぎると心と体が壊れるかも
「好きなのに触れられたくない」と口にできず、ひとりで抱え込む時間が長くなると、不安は雪だるま式に大きくなります。寝不足や食欲不振、頭痛など身体症状が出る場合もあるでしょう。「性行為を避けたい自分は欠陥なのでは」と自責に陥りやすいですが、これは決して異常ではありません。
悩みを軽くする第一歩は、信頼できる相手やコミュニティに思いを打ち明けることです。なかには、プロのカウンセラーを頼ったり、呼吸法や日記で心身を同時に緩めたりする方法を取る方もいます。
悩みを完全に無くすのは難しいものの、悩みに占領される時間を短くする工夫ならたくさんあります。
“安心と不安“の境目を見つけたら楽になった

実は筆者である私もノンセクです。私の場合、相手の手を握るまでは嬉しいのに、それ以上を求められると恐怖心が湧く自覚がありました。そこで「安心できる行為」と「不安になる行為」を紙に書き出し、境界線を可視化しました。
たとえば「肩に軽く触れられるまでは安心」「キスは気分次第」「服の下に手が入った瞬間に不安が強まる」と具体的に区切ります。
このリストをパートナーと共有したところ、互いに安心してコミュニケーションを取れるようになりました。ノンセクシュアルの体験記を読んでも当てはまらず、余計に混乱することもありましたが、自分自身のリアルな感覚を言語化したことが1番よかった気がします。
境界線は固定ではなく、体調や経験で変わる「更新型の地図」だと捉えると、自分にも相手にも優しくなれます。
「触れない愛」も選択肢の1つ
恋愛のゴールが、必ずしもベッドシーンである必要はありません。手をつなぎ、食事を分かち合い、日々の喜びや不安を語り合うだけの関係でも、人生を豊かにできます。近年は「友情結婚」や「パートナーシップ協定」を結び、性的関係を伴わずに家庭を築くケースも増えています。
性的接触がなくても、同じ住まいを共有し、収入や家事を分担し、人生の重荷を背負い合う──そんな形も立派な愛の在り方です。
愛は水のように、器の形に合わせて姿を変えます。あなたと相手が納得し、心地良さを感じられるなら、その形は世界にひとつだけの理想形といえるでしょう。
過去の私のように悩んでいるすべての皆様へ。「足がすくむ」感覚は、あなたを守るブレーキとして働いている可能性があります。怖さを感じたときは自分のペースを尊重し、境界線を示して共鳴してくれる相手を探してみてください。
恋愛を諦めるより、恋愛の定義を自分仕様に書き換えるほうが心は自由になります。足がすくんでも、歩き方を選び直せば前へ進めます。
あなた自身が心地良い速度で、気持ちにゆとりをもって景色を眺めながら歩けば、それに共鳴できる方はかならずいます。恋愛したい気持ちを諦めず、でも焦らずに自分仕様の恋を探していきましょう。