「男性が“かっこいい”と思えないんです」
インタビューの冒頭で、エルさんは迷いのない声で言った。エルさんは、自身のセクシャリティを「ストレート」と認識していて、恋愛対象は異性だ。けれど、いわゆる恋愛ドラマの胸キュンシーンや、少女漫画に登場する“王子様”のような男性像に、これまで一度も強く心を動かされたことがないという。
「男性に惹かれないわけではないんです。ただ、“かっこいい”という感情が、自分のなかにほとんどなくて」
少しだけ、私たちが当たり前だと思い込んできた恋愛の入口とは違う感性が、そこにはあった。フレマガでは、恋愛感情を前提としないパートナーシップを目指すSNSアプリ・フレマのユーザーさんに、自身の恋愛・結婚観や、セクシュアリティに関するこれまでの実体験について、お話を伺っていく。
“性別らしさ”を意識してこなかった幼少期
エルさんは、子どもの頃から“性別らしさ”というものを、あまり意識せずに育ってきたという。
たとえば、「男の子は青で、女の子はピンク」といった色分け。周囲の友だちがそれを自然に受け入れていく過程で、エルさんは「それはその人の価値観なだけであって、自分はそうは感じないかもな」と、どこか一歩引いた距離で見ていた。
青も好きだし、ピンクのものをもらえば嬉しい。けれど、それが自分自身を規定するものだとは思えなかった。
「男性はこう、女性はこう、という役割を、あまり取り込まずに育ってきた気がします」
この感覚は、後にエルさんの恋愛観にも、静かにつながっていく。
小学生の頃、まわりでは少女漫画が流行っていた。女性を守るために戦う男性、危険からかばってくれる先輩、車道側を歩いてくれる彼氏。友だちは口々に「かっこいい」と口にしたけれど、エルさんには、その気持ちがどうしても分からなかった。
「ときめく、というより……切なくなる、というか」
誰かのために自分が傷つくことで、成り立つ優しさ。そこに魅力を感じるよりも、「それって苦しくないのかな」と、自然に思ってしまったのだとか。
「私だったら、相手のことも一緒に守りたいと思うだろうな、って」
その違和感が、エルさんにとって最初の“恋愛の入口の違い”だった。
“かっこいい”よりも“かわいい”に惹かれる理由

エルさんが「かわいい」という感情をはっきり自覚するのは、たとえば動物に対して。ドッグランで無心に走り回る犬の姿や、動物園の肉食動物が牙をむいて威嚇する様子。誰かに見せるためではなく、ただ自然にそこに存在している姿に、強く惹かれた。
「無理をしていない、飾っていない、自然体でいる状態。それが私にとっての“かわいい”なんだと思います。命が、そこにちゃんとある感じ、というか……」
エルさんの言う「かわいい」は、見た目に対する評価ではない。そこに生きている命が、そのままの形で息をしていることへの、静かな愛着なのかもしれない。
男性に惹かれるときも、その感覚はまったく同じだという。
びっくりしたときの思わず出てしまうリアクション。ふと手が触れたときの体温。笑った瞬間の表情や、本人が気づいていない寝癖のような小さな違和感。
「繕っていない瞬間に、すごく心が動きます」
守ってあげたいからでも、支えたいからでもない。自然にそこにいる、その人自身に惹かれているだけなのだ。
不思議なのは、女性に対しても同じように「かわいい」と感じることがあるのに、それが恋愛には結びつかないという点。
「女性の笑顔に対しても、かわいいと思うことはあります。でも、“そばにいたい”という感情にはならないんです。自分でも、矛盾しているな、と思うことはあります」
一方で、男性に対しては、距離を縮めたいという感覚が生まれる。その違いはとても本能的で、言葉にしようとすると、どうしても説明しきれない部分が残る。
けれど、エルさんは無理に分類しようとはしない。説明できない感覚もまた、自分の輪郭の一部なのだと、静かに受け止めている。
「みんな、等しく大切な命」

エルさんは、人との関わり方についても、少し独特だ。たとえば、出会った人を最初から特別扱いするようなことは、ほとんどないという。年齢や立場、性別にかかわらず、目の前にいる人を同じように大切な存在として見ている。
「たとえば、電車でお子さんに席を譲るときでも、“子どもだから”という理由ではなく、つり革に手が届かなくて危ないと思うから譲ります。もし相手が大人の方でも、小柄だったりお酒に酔っていたりして危険だな、と思ったら、同じように席を譲る。どんな人に対しても、みんな等しく大切な命だと思っているからです」
周りからすると少し奇妙かもしれないけれど、相手が子どもでも「おかけになりますか?」と声をかけてしまう、というエルさん。年齢に関係なく、初対面の人に対して「座りたい?」などと丁寧語を取り払うと、話し方がたどたどしくなってしまうからだという。
どんな相手に対してもフラットな接し方をしているエルさんだからこそ、「そのなかでも、とくにこの人が好き!」と認識するまでには、時間がかかる。それは決して冷たさなどではなく、安易な理由で誰かを選んでしまいたくない、というエルさんの真摯な姿勢ゆえなのかもしれない。
そんなエルさんが、フレマのイベントに参加して強く感じたのは、「条件から自由な出会いの場」だったという。プロフィールや年収、結婚の意思といった項目で人を見るのではなく、同じ空間に集い、同じ話題を共有する時間。
「マッチングしなくてもいい、という前提がすごく楽でした」
友達を探してもいいし、無理にパートナーを見つけなくてもいい。ただ、人としてそこにいていい。その空気が、自分の感性ととても近いと感じたという。
恋愛感情にも、いろいろな入口がある。
かっこよさに惹かれる人がいてもいい。頼もしさにときめく人がいてもいい。そして、自然体で生きている“命の気配”に何よりも惹かれる、そんな恋愛の始まりがあってもいい。
エルさんの言葉は、恋愛を特別なものにしすぎない。けれど同時に、人を想う気持ちの輪郭を、とてもやさしく広げてくれるようだ。





