恋愛にも結婚にも興味はない、ひとりで楽しく愉快に暮らしていきたい。それでも、結婚しないまま年を取ったらどうなるんだろう? そんな不安や疑問を抱えたことがある人に、ぜひ観てほしいドラマがある。2025年7月スタートのNHKドラマ『ひとりでしにたい』だ。主演は綾瀬はるか、脚本は『あさが来た』の大森美香。私自身、葬儀会社で働いていた経験があり、誰もがいずれ迎える「終活」というテーマに強い関心がある。ひとりで生きること、そしてひとりで死ぬこと。それは本当に「寂しい」「かわいそう」なことなのだろうか?
結婚しない・ひとりで生きることをどう考える?

仕事、親の老後、そして経済的な不安。ひとりでも十分楽しいし、何の問題もないから結婚はせずにひとりで生きていく。そう決めた瞬間から、解決しなければならない具体的な問題が一気にリアルに浮かび上がってくる。
かつては「結婚して当たり前」「子どもを持って当たり前」とされていた時代も、いまは少しずつ変わってきている。とはいえ、未だに「結婚しないまま年を取ったら寂しいよ」「誰かと一緒じゃないと不安でしょう?」と言われることは少なくない。
そんな価値観に揺れ、板挟みになっているすべての人に、このドラマは問いかけてくる。結婚しない生き方も、ひとつの選択なのだと。
ドラマの主人公は、35歳独身のOL・山口鳴海(綾瀬はるか)。趣味はアイドルの推し活で、恋愛にも結婚にもさほど興味がない。
そんな彼女が老後や死に方について考えるようになったきっかけは、伯母の孤独死だった。女性ひとりで老後を生き切ることに急速的な不安を覚えた鳴海は、急いでマッチングアプリに登録して婚活に勤しむものの、撃沈。やがて彼女は「一人で生きる」「一人でしぬ」ことを、前向きに捉えようとし始める。
とくに心に残ったのは、鳴海とその両親——父・和夫(國村隼)と母・雅子(松坂慶子)との関係だ。
和夫は、娘が仕事を辞めて実家に戻ればいいと考えている。妻の雅子や娘の鳴海に面倒を見てもらう気満々。まさに昭和的な価値観だ。だが鳴海は、その考えにきっぱりNOを突きつける。「自分の人生がなくなるから」と。
親世代と子世代の価値観ギャップ。介護や老後問題を、コメディタッチを交えながらもシビアに描いている点が、今作の最大の魅力である。
また、母・雅子が密かに熟年離婚を考えていたり、亡き伯母との因縁があったりと、ただの家族ものにとどまらない深みもある。結婚していても、家族がいても、それが必ずしも幸せとは限らない。そんなリアルが詰まっている。
結婚しないからこそ考える「終活」のかたち

このドラマがおもしろいのは、婚活と終活をひとつの線でつないでいるところだ。
最初は孤独死が怖くて婚活を始める鳴海。しかし途中で彼女は気づく。「誰かと一緒にしにたいわけじゃない」と。
結婚しない=不幸、という価値観はもはや古い。仕事や趣味、自分らしい生活を大切にしながら、いざというときのために準備を整える。それが「終活」だと、このドラマは伝えてくれる。
私自身、葬儀会社で働いていたとき、たくさんの「ひとりで亡くなった方」と出会った。けれどそれが必ずしも「不幸」だったわけではない。生前からしっかり準備をしていた方も多かったし、配偶者や子どもがいても疎遠になっているケースだって珍しくなかった。
「結婚していないから不安」ではなく、「どう準備するか」が大事。このドラマは、あらためてそう思わせてくれる。
血縁だけが家族じゃない。選べるパートナーシップ
鳴海のように「結婚しない」「ひとりで生きる」ことを選んだ人が増えているいま、家族のかたちもまた変わりつつある。
FrieMagazine(フレマガジン)では何度も取り上げてきている「友情結婚」や「フレンドシップ婚」。血縁や恋愛感情に縛られない、新しいパートナーシップのかたちだ。
ドラマ内でも、鳴海と年下同僚・那須田(佐野勇斗)とのやりとりは、恋愛とはまた違う信頼関係のように描かれている。必要なのは「好き」という気持ちだけではなく、「お互いを支え合える関係性」なのだと気づかされる。
ルームシェアやシェアハウス、週末婚や別居婚。選べる生き方は本当に増えている。ひとりが不安なら、自分にとって心地よい距離感の相手と暮らす。そういう選択肢があってもいいはずだ。
『ひとりでしにたい』は、単なる終活ドラマではない。「どう生きるか」「どう死ぬか」を問い直すきっかけになる作品だ。結婚しない人生は、決して「諦め」ではない。むしろ「自分で選んだ人生」。
周囲の声に振り回されず、自分が心地よい生き方を選ぶ。そのためには、終活の準備を早めに考えておくことも大事。葬儀や財産整理、住まいのこと……面倒だけど、大切なことばかりだ。
結婚するもしないも、自分で選ぶ。それと同じように、最期まで「自分らしい」を貫けたら。そんなふうに思わせてくれるドラマだった。ひとりで生きることを、恐れすぎない。その第一歩として、この作品を観てみるのもいいかもしれない。