「友情婚」という言葉を初めて耳にしたとき、私は軽く衝撃を受けた。
結婚といえば、恋愛感情を持った相手同士でするものだという前提を、ずっと疑いもせずに生きてきたからだ。
だけど、その前提は自分にとっては少し窮屈な枠組みだった。
正直言って恋愛そのものが嫌いなわけじゃないし、過去には好きな人だっていた。それでも「一生添い遂げる」ほどの熱量を持ち続けられるかと問われると、自信はない。
恋愛感情が薄れてきたとき、あとに残るのは何なのか?信頼か、友情か。それなら、最初からその部分を土台にすればいいのではないか……。そんな発想に心が引き寄せられた。
「恋愛抜きで一緒に生きる未来を、想像したことはありますか?」
もし首をかしげたあなたにも、この「友情婚」考え方は案外しっくりくるかもしれない。
恋愛と結婚の「理想」と「現実」

世間では、「恋愛→結婚→子育て」という一本道が、あたかも人生のゴールデンルートのように語られる。恋愛感情の高まりをきっかけに結婚し、家族をつくり、子どもを育てる。それが“普通”とされてきた。
だけど、現実はどうだろう。よくある恋愛ソングの歌詞みたいになってしまうけれど、恋愛感情は永遠ではない。
最初は毎日くる連絡が嬉しかったのに、数年後には「いちいち返事しなきゃならないのがめんどう……」という億劫さに変わることもある。些細な生活習慣の違いが、積もり積もって大きな亀裂になることもある。
恋愛を前提にした結婚には、感情の浮き沈みや価値観のズレというリスクが常に潜んでいる。もちろん、そんなリスクを上手く乗りこなせるカップルもいるだろう。だけど、「愛情の形はひとつじゃない」という事実が、もう少し認められていいと思う。
友情婚に惹かれる理由
友情婚は、恋愛感情ではなく友情や信頼を土台にしたパートナーシップだ。私がこの形に惹かれる理由は、ひと言でいえば“安定感”かもしれない。
まず、安心感がある。恋愛関係のように「気持ちが冷めたら終わり」ではない。長く続いてきた友情のうえに成り立つ関係は、感情の波に左右されにくい。
次に、価値観や生活リズムを尊重しやすい。恋愛関係だと「もっと一緒にいたい」「なぜ会ってくれないの」といった感情がぶつかることがあるが、友情婚では互いの時間を自然に尊重できる。
さらに、現実的なメリットもある。家事や生活費の分担、病気や災害時の助け合い、老後の支え合いなどなの。恋愛感情に頼らなくても、人生をともにする利点は意外と多いのだ。
私が描く理想の友情婚は、同じ家で暮らす場合もあれば、阿佐ヶ谷姉妹のように「同じマンション内の別部屋」というスタイルもいい。
仕事で疲れて帰宅した日は、自分の部屋で静かに過ごす。一方で、週末や記念日には一緒にごはんをつくって食べる。そんな、無理のない距離感が魅力だ。
病気や災害時にはすぐ駆けつけられる距離だから安心だし、日常的には、それぞれの趣味や交友関係を大切にできる。推し活の遠征や趣味活動にお金を使っても、責められることはない。それぞれの人生を持ちながら、「いざというとき頼れる人がそばにいる」という心強さがある。
友情婚に向けて大切なこと

もちろん、友情婚にも準備は必要だ。
とくに大事なのは、価値観や生活習慣、お金の使い方について事前にすり合わせることだと思う。たとえば、以下のようなこと。
- 食費や光熱費をどう分担するか
- 家事の分担はどこまでやるか
- 旅行やイベントにどれくらいお金をかけるか
- 将来の介護や医療に関する希望はあるか
こうしたことを曖昧にせず、できれば契約や覚書の形にしておくと安心だ。感覚だけに頼ると、後から「こんなはずじゃなかった」となりやすい。
そして何より大切なのは「適度な距離感」だ。友情は近づきすぎてもうまくいかないことがある。お互いの自由とプライバシーを守ることが、長続きの秘訣だと思う。
友情婚は、恋愛の有無に関係なく、お互いの人生を豊かにできるパートナーシップの一形態だ。
恋愛や結婚が合う人もいれば、合わない人もいる。それは「諦め」ではなく、「自分に合う道を選んだ」だけのこと。自分が幸せだと思える関係性を、自分の手で選び取ることこそが大切だ。
友達以上、恋人未満。その微妙な距離感のなかで築く暮らしには、愛情の深さも、安心感も、そして自由もある。そんな未来を、これからも模索していきたい。